Dye Deep Violet

「オレンジの汁を目に入れてみたらすげー痛かったんですけど、なんでですか?」「 なるほどォ!するどい質問だねェ藍沢君 よし教えてあげよう 世の中にあるものはたいがい、目に入れたら痛い」

Everlasting Affection

今日は三記事更新です!(滅多に来られないので^q^q^)

えりきの?きのえり?

電太(ベベルだっけ)作漫画を小説化しただけです。

ネタ提供ありがとうマン。

 

ホモなので続きを読むからどうぞ…↓

 

君はどうして十字架に張付けにされているんだい

罰を受けるべきは私であるのに

 

—————愛してるよ、キノールさん

 

頬を伝う生温いものは涙である事を悟った

私にも涙が残っていたんだね

すっかり枯れ果てたものとばかり思っていた

君はもう私の手の届かない所へ行ってしまったから

差し伸べるこの手が温かい君の頬に触れられると良かったのだけど

 

 

***

 

 

あまりの頭痛に目が覚める。頬に触れると確かに湿っていた。

暫く無心に薄暗い虚空を見つめていたが、ドアをノックする小さな音が耳に入る。

「キノールさん、起きた?入っていいですか?」

「どうぞ」

今は彼を不安にさせるべきではない。涙をしっかりと拭うとベッドから上体を起こす。

ドアをゆっくりと開き、申し訳なさそうに青年が入ってくる。彼はベッド脇に据置いている木製の椅子に腰掛け、台車を自分の横まで引っ張ってくると、わざわざ薬包紙に載せた鎮痛剤を二錠と、何も入っていないグラスをサイドテーブルに載せた。空のグラスをひっくり返して二、三度振ってからもう一度テーブルに置き、今度は水の入ったペットボトルを持ち、キャップを捻る。

「よく眠れた?」

グラスに冷たい水を注ぎながら、青年は穏やかな表情で尋ねる。

「ああ」

「僕にも噓をつくんだね」

青年は主の返答に対し間髪を容れず口を利いた。

「おや、どうして」

「目の下に、隈ができてて、目が腫れてる」

悲しそうに笑いながら、青年は水の入ったグラスを掌に載せる。

「エリス、またグラスの持ち方を間違えているよ」

主は青年の手からグラスを受け取り、鎮痛剤を口に含んでグラスを傾け、やや力なく飲み下した。

 

 

「そうだエリス、今日は海に行こう。海に行きたい」

「海ですか」

主はベッド脇の椅子にパジャマを脱ぎ捨て、タートルネックを頭からすっぽり被ってしまうと、白衣に袖を通す。青年は主に片眼鏡を差し出しながら、細い指に顎を捉えられるのを待っていた。

不意を突いて背に回った腕を解くことなく、屈むようにしてその華奢な身体を抱き締めると、思いの外その腕はきつく絡み付いてきた。

「君は」

耳元で囁く声は微かに震えている。

「いなくなっちゃ駄目だよ」

「わかってる」

宥めるように指で髪を何度か梳き、僕はいなくなったりしないよ、そう心で訴えながら上気する頬に唇で触れた。

 

 

***

 

 

父なる海は寛大であり、氷雨が降ろうと村が焼けようと変わらず穏やかなものであった。この日も例外なく揺蕩う波は落ち着き払い、また断崖の岸からは果てが見えず、いくら見下そうとも海というものはどこまでも広がるように思われてならなかった。

「きれいですね」

「ああ」

エリスは波の音が胸の蟠りを溶かしていくようで、心地好いようでありながら、不思議と居心地の悪さも感じた。

 

ああ、この人は、ここには僕を連れてくるはずじゃなかったんだろう

 

悔しくもどかしく、それでいてどうにもならない無力感が、身体を重くさせる。思わず唇を噛み、俯くと、視界の端に鮮やかな色が映り込んだ。

 

 

一番愛らしい顔をしていた小さな花を一輪摘み取り、照れくささをどうにか隠そうと口を真一文字に結び、それを必死に保ちながら立ち上がる。やはり笑みが零れてしまい、苦笑と照れ笑いを浮かべつつ振り返ると、愛する人の姿は既に消えていた。

 

慌てて崖の下を覗く。激しく立つ飛沫に、彼は海面に身を投げたのだと思い知らされる。

手を伸ばし、叫ぼうとするが声が出ない。

エリスは背を丸めると、身体に組み込まれた翼を軋ませながら大きく開いた。

 

 

 

—————キノールさん

 

「…ジャック」

 

君はこんな所にいたんだね

やっと見つけることができた

さあ、一緒に帰ろう

 

「待って」

 

またそんなふうに寂しそうに笑うんだ

駄目だよ、ここから海に飛び込むなんて

行かないでおくれよ

君がまた私を置いて行くのなら、私がついて行かなくては

 

 

背骨とか、首の骨が軋んだような気がする。

体中がひんやりとして、なんだか気持ちがいい。

塩水を大量に飲み、目にも鼻にも入ってくるが、痛みや苦しさは感じない。

深く深く潜っていく君に向かって必死に手を伸ばして、届きそうになって、触れようとすると、また遠く離れていって。

 

 

どうして待ってくれないの?

私はただ、もう一度、この腕に君を抱きたいだけなんだ

 

 

段々身体が重くなってきて、離れ過ぎて、君の姿はもう見えなくなってしまった。

ごめんね、限界だ…。

 

 

 

誰かが足首をつかんで、それから腰を抱いて、ようやく身体を抱き締めた。

薄れていく意識の中で、私は君がやっぱり来てくれたのかと思って、嬉しかったんだ。

 

 

海面に向かって上昇している時、わずかな力を振り絞って、海の底を顧みた

岩の上に君が立っていた

君は幸せそうに微笑んでいた

 

 

 

 

—————さよなら、キノールさん

 

 

 

 

君の名前を叫んだけれど、もう言葉にならなかった。

 

 

***

 

 

愛する彼が落ち着くまで、少し時間がかかった。

側でじっと見守る間、彼の涙をそっと拭ったり、翼を乾かす時間に充てた。

 

 

「…もう、帰ろうか、エリス(・・・)」

彼がそう口にした時には、日は既に暮れていた。

「…はい、キノールさん」

 

 

彼は僕の顔をまともに見なかった。理由はなんとなくわかっている。

僕はそれをいいことに、さっき摘んでしまった可愛い花を、そっと捨てた。